東京都内の自治体を中心に住宅地での民泊新規営業を禁止するなど規制強化の動き

日本の街角で、カラコロと鳴り響くキャリーケースの音が夜の静寂を破る。見上げれば、民家の軒先に異国からの旅人が佇む。政府が「観光立国」の黄金を夢見て開いた民泊の扉は、いまや地域住民のささやかな日常を脅かす刃となりつつある。

制度が始まって8年。都内で最多の民泊を抱える新宿区には、ゴミのポイ捨てや騒音を訴える悲鳴に近い声が年間1300件も寄せられたという。保健所の対応は追いつかず、区はついに住宅地などでの営業を原則禁止する条例改正へと舵を切った。「業界が招いた事態だ」という区長の言葉には、限界を迎えた現場の切実な憤りが滲む。

台東区や大田区、京都など全国に広がる規制強化の波は、過度な観光需要が生んだ悲劇の証左にほかならない。経済効果という華々しい数字の陰で、近隣住人の安眠や地域の安心という「買い直しのきかない財産」が切り崩されてきた。

かつて抑制に慎重だった観光庁も、住環境の悪化を理由とした実質的な営業禁止を自治体に容認する通知を出した。遅きに失した感はあるものの、実情に目を向けた転換である。夜間苦情のコールセンターを設けるなど悪質業者の取り締まりを支援するというが、根本的な課題は単なる監視体制の強化にとどまらない。

旅とは本来、その土地の風土や暮らしに敬意を払い、静かに溶け込む営みであったはずだ。住民の平和な日常を犠牲にして成り立つ狂乱の賑わいに、持続可能な未来はない。見知らぬ旅行者の影に怯える暮らしを住民に強いてまで「立国」を誇る道理がどこにあろうか。街のぬくもりを守るための厳格なルールづくりこそが、本当の意味で訪れる人を温かく迎える土台となるはずだ。

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