熊本市が高額医療合算介護サービス費めぐり事務処理ミス・・・払い戻しの「漏れ」が問うもの
熊本市が、高額医療合算介護サービス費の支給で事務処理ミスがあったと発表した。支給漏れは677人、総額2023万円余り。単純に割れば、一人あたり3万円ほどになる。数字にすれば小さく見えるかもしれない。だが、これは行政が本来、黙っていても渡すべきお金である。
この制度は、介護と医療の自己負担が一年間で上限を超えたとき、超過分を払い戻すものだ。介護を受ける人、医療にかかる人は、多くが高齢で、年金暮らしの世帯も少なくない。月々の支出を切り詰めながら暮らす人にとって、数万円は米や薬、光熱費をまかなう額である。「たかが」と言える金額ではない。
しかも、漏れの原因が見過ごせない。申請後に亡くなった利用者の払い戻し先を、相続人の口座に更新する場面で、市が作った作業ツールの設定に誤りがあったという。つまり、家族を亡くした人々に、行政の手違いが追い打ちをかけた格好だ。看取りの後、慣れない手続きに追われ、ようやく申請を済ませた遺族に、お金が届かなかった。そのことに気づかぬまま、時間だけが過ぎていたのである。
不思議なのは、誰も気づかなかったことだ。ツールは人の手で作られる。ならば、人の手による検算があって当然である。取り込んだデータの件数と、支給した件数と、金額。突き合わせれば、どこかで食い違いが見えたはずだ。それが見逃されたのは、便利な道具への過信か、確認という地味な作業の軽視か。「システムがやったこと」という言い訳は、住民には通用しない。
市は発表と同時に、おわびの文書を送り、翌日には入金を済ませたという。迅速な対応は評価できる。しかし、後始末が早いのは、ミスの重さを帳消しにする理由にはならない。払い戻しは、本来あるべき時期に、あるべき人へ届いてこそ制度の意味がある。遅れた間、待たされた人の不安と不便に、おわびの文書一枚で報いたと考えるなら、行政の感覚はずれている。
役所の仕事は、間違いを前提に組み立てなければならない。二重三重の確認、第三者の目、ツール導入時の試験運用。面倒に見える手間こそが、住民の暮らしを守る防波堤になる。デジタル化は事務を軽くするが、責任まで軽くはしてくれない。
熊本市には、原因の徹底した検証と、再発防止策の具体的な公表を求めたい。他の給付事業に同様の穴はないのか、全庁での点検も欠かせない。請求しなければもらえない制度の陰で、気づかれぬまま消えていくお金が、ほかにないと誰が言えるだろう。
払い戻しとは、住民の財布に戻るべきものが戻るという、ごく当たり前の約束である。その当たり前を守れなかった重みを、市は肝に銘じてほしい。

