熊本市は13日、大甲橋について、歩道の一部を車道に変更し、隣接するバス向けの車線を拡幅する方針を示した
明治の文豪・夏目漱石が熊本に赴任した際、緑豊かな景観に心奪われ「森の都」と称えたという。その市街地を東西に貫き、阿蘇から注ぐ白川に架かる大甲橋(たいこうばし)は、まさに熊本の交通と歴史を支え続けてきたシンボルである。
この歴史ある橋の車道で、今ひとつの変調が生じている。市が発表した方針によれば、歩道の一部を車道に削り譲るか、あるいは歩道を白川側へ張り出させて車線を広げるという。理由は明快だ。車線幅が2・4メートルから2・6メートルほどしかなく、2・5メートル幅の路線バスが通過するにはあまりに狭すぎるからだ。縁石にタイヤを擦り、対向車とヒヤリとする事故も後を絶たない。市民へのアンケートでも「車道にゆとりがない」と感じる人が約9割に上ったのに対し、「歩道にはゆとりがある」との答えが8割を超えたという。
数字が物語るのは、時代の変化とともに生じた「道と車両のアンバランス」である。設計された当時の交通量や車両の大きさと、市民の足たる大型バスが行き交う現在の日常との間に、いつしか看過できないズレが生まれていた。今回の車輪の安全を最優先とする見直しは、現実的な英断として評価されるべきだろう。
ただし、歩行者から見れば、これまで享受してきたゆったりとした歩行空間が変更される不安もある。荷重の位置が変わる橋梁の構造的な安全性確保はもちろんのこと、特別委員会で指摘されたように、車道の脇を走り抜ける自転車やバイクへの目配りも欠かせない。
道とは、自動車やバスだけのものではなく、歩く人、ペダルを漕ぐ人、すべての市民が共有する「公共の舞台」である。ただ車線を広げて終わるのではなく、多様な交通が互いに思いやりを持ち、安全に行き交える道空間へと生まれ変わることを期待したい。秋風が白川の川面を渡る季節、歴史ある橋が描く未来の姿に、静かに注目している。

