相続人が未成年者又は成年被後見人であるとき熟慮期間はどうなるのか 民法917条の解説

親から子へ、財産とともに引き継がれる相続というドラマ。だが、そこに引き継ぐ価値のない借金が含まれていたとしたらどうだろう。民法は、相続人が「自分が相続人であり、相続が始まった」と知った時から3か月以内に、承認するか放棄するか(あるいは限定承認するか)を決めなければならないと定めている(第915条1項)。これを熟慮期間と呼ぶ。

しかし、もしその相続人が「未成年者」や「成年被後見人」だったらどうなるか。判断能力が十分でない子どもや被後見人に「3か月以内に決めろ」と迫るわけにはいかない。そこで登場するのが民法第917条である。

第917条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

本条は、相続人が未成年者等である場合、熟慮期間(3か月)のカウントダウンは「法定代理人が、その未成年者等のために相続の開始があったことを知った時」から始まる、と規定している。主語が「本人」ではなく「法定代理人」に置き換わる点が最大のミソだ。

具体的な事例で考えてみよう。

【事例】
未成年者Aの父親が亡くなった。父親には多額の借金があった。Aの母親(親権者=法定代理人)は、夫の死亡を知ってはいたものの、悲しみと慌ただしさの中で相続手続きのことまで頭が回らず、放置していた。父親の死亡から4か月が経過した頃、消費者金融から母親のもとに「旦那さんの借金を息子さんの分として払ってください」と催告書が届く。母親はここで初めて「息子(A)に借金が相続されてしまうこと」と「夫に多額の債務があったこと」を認識した。

この場合、父の死亡からすでに3か月を超えているが、Aは放棄できなくなるのだろうか。答えは「放棄できる」である。

本条の適用により、期間の起算点は「法定代理人(母親)が、未成年者Aのために相続開始を知った時」となる。裁判例の実務では、単に「人が死んだこと」を知っただけでは足りず、「その死亡により、未成年者が相続人になったこと」までを知った時が起算点と解されている。したがって、母親が借金の存在や相続の発生を正しく認識した時点から3か月以内であれば、家庭裁判所へ相続放棄の申述をすることが可能だ。

実務上、特に注意すべき論点も存在する。

第一に、利益相反(りえきそうはん)の問題だ。
例えば、父親が亡くなり、相続人が「母親」と「未成年者A」の2人だったとする。母親自身が相続放棄をせずに、未成年者Aだけを相続放棄させようとすると、「親が自分の取り分を増やすために子どもに放棄させるのではないか」という疑念が生じる。この場合、母親とAの利益が衝突(利益相反)するため、母親はAの代理人になれず、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらう必要がある。そして、第917条の熟慮期間は「選任された特別代理人が相続開始を知った時」から起算されることになる。

第二に、「未成年者等のために」という知悉(ちしつ)の態様である。
法定代理人が単に身内の死亡という事実を知っていただけでは不十分で、「代理すべきその未成年者等のために相続権が発生したこと」を認識した時が起算点となる。実務では、後から「知らなかった」と主張しても認められないケースもあるため、事実関係の確定(いつ、どの郵便物で債務を知ったか等)が非常に重要視される。

法律は、自らの権利を守る術を持たない弱者を置き去りにはしない。民法第917条は、判断能力の未熟な子どもや被後見人が、与えられた選択権を行使できるよう法定代理人に守られた「猶予の傘」なのである。

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