熊本県南部を中心に甚大な被害をもたらした熊本豪雨から6年

あの日から6年、濁流に呑まれた街は静かに祈りの朝を迎えた。2020年7月、熊本県南部を襲った猛烈な豪雨は、球磨川の氾濫を引き起こし、人吉市をはじめとする地域に深い爪痕を残した。災害関連死を含め69人もの尊い命が失われ、人吉市だけでも21人が帰らぬ人となった。悲劇の記憶を刻む人吉市で5日、犠牲者の追悼式が営まれた。遺族ら48人が出席し、手向けられた白い花に、それぞれの尽きぬ哀悼の誠が捧げられた。

時の流れは、被災地の景色を変えていく。崩れた堤防は築き直され、泥にまみれた家々は片付けられて、一見すれば復興は進んでいるかのように見える。しかし、愛する家族を突如として奪われた遺族の心の傷が、6年という歳月で癒えることはない。式典で松岡隼人市長は「より強く、より安全な人吉を未来へつないでいく」と誓った。この言葉は、行政の首長としての決意であると同時に、二度と同じ悲劇を繰り返してはならないという、犠牲者への重い約束でもある。

近年の気候変動は凄まじく、かつての「想定外」が毎年のように日本のどこかで現実となっている。豪雨災害から6年という節目は、単に過去を振り返り、故人を偲ぶだけの日ではない。私たちが暮らすこの国土が、常に自然の脅威と隣り合わせであるという厳然たる事実を、改めて胸に刻む日でもある。強靱なインフラを整えるハード面の対策はもちろん重要だが、それ以上に、地域社会の絆を紡ぎ直し、いざという時に命を守る避難の意識を未来へ継承していくソフト面の営みが欠かせない。

清らかな流れを取り戻した球磨川のせせらぎを聞きながら、私たちは問われている。あの日、激流の中で失われた命の教訓を、真に生かしていくことができているだろうか。悲しみを強さに変え、安全な郷土を次世代へと引き継ぐ歩みを、一歩ずつでも確実進めていくこと。それこそが、今を生きる私たちに課せられた、死者への何よりの供養であるはずだ。

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