民法926条の相続の限定承認者による管理はどういうものか

「自分のものと同じように大切にしなさい」。幼い頃、友達から借りたおもちゃを扱う際に、そう親から諭された記憶はないだろうか。だが、法律の妙とでも言うべきか。民法第九百二十六条が求めるのは、まさしくその逆である。「自分の財産に対するのとまったく同じ注意を払いなさい」というのだ。

第926条(限定承認者による管理)
① 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
② 第645条、第646条並びに第650条第1項及び第2項の規定は、前項の場合について準用する。

対象となるのは「限定承認」を選んだ相続人だ。限定承認とは、亡くなった人(被相続人)の借金などの負債を、引き継いだプラスの財産の範囲内でのみ返済するという、いわば「リスク限定付き」の相続制度である。多額の借金に怯える相続人を保護するありがたい仕組みだが、裏を返せば、残された財産から弁済を受ける「債権者(貸し手)」を守る配慮も欠かせない。

ここで第一項が効いてくる。「固有財産におけるのと同一の注意」とは、専門用語で「自己の財産に対するのと同一の注意」と呼ばれる。善管注意義務(管理者としての平均的な注意)よりは若干軽やかだが、さりとて「他人事」として雑に扱ってよいはずもない。

例えば、父が遺した賃貸アパートを限定承認した息子・A氏を考えよう。A氏が「どうせ借金の返済に消えるアパートだ」と高をくくり、雨漏りを放置して資産価値を暴落させたり、家賃の取り立てを怠ったりすればどうなるか。それは債権者に対する背信であり、管理義務違反となる。固有財産並みの注意という文言は、「自分の家なら雨漏りを直すだろう、それと同じ熱量で守りなさい」と背中を正す一文なのだ。

さらに同条第二項は、委任の規定(報告義務や受取物引き渡し義務など)を準用する。管理のプロセスを可視化し、精算手続きに透明性をもたせるためである。

だが、実務の現場に目を転じると、話はそう単純ではない。実は、限定承認という制度自体が日本において「絶滅危惧種」と揶揄されるほど利用されていない。手続きが煩雑で、相続人全員の共同申請が必要なうえ、不動産に潜む「みなし譲渡所得税」などの税務リスクが重くのしかかるからだ。

結果として、重い管理責任と報告義務を負わされる限定承認者は、手間の多さとリスクの狭間で苦しむことになる。実務上は、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てるなどして、専門家に実務を委ねるケースも少なくない。

「自分のものと同じように扱う」――言葉にすれば温かいが、その裏には他人の権利と自らの責任が交錯する冷徹な法理論が横たわっている。引き継ぐのは富か、あるいは責任か。亡き人の生きた証しを精算する作業は、いつも厳粛で、そして少しほろ苦い。

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