熊本市が4日、熊本市に住む50代男性がパラチフスを発症したと発表

旅先での「冷たい一杯」や「みずみずしい生野菜」の魅力には抗いがたいものがある。とりわけ見知らぬ土地の雑踏や熱気の中に身を置くとき、その地ならではの食文化に触れることは旅の大きな醍醐味(だいごみ)だろう。しかし、その一口が思いもよらぬ病を連れてくることがある。

熊本市でインドから帰国した50代の男性がパラチフスを発症した。国内での報告例の多くが海外渡航に起因するものとされるが、熊本県内では今年6月にも17年ぶりとなる感染者が確認されたばかりだ。流行地域からの「持ち込み」という形で、感染症は静かに、しかし確実に私たちの身近な生活へと入り込んでくる。

パラチフスはパラチフス菌による感染症で、主に汚染された水や食物を介して感染する。数週間の潜伏期間を経て高熱や頭痛、腹痛に襲われるという。今回感染した男性も帰国後に39度を超える熱を出し、一時は症状が改善せずに入院を余儀なくされた。さいわい回復に向かっているとの報には胸をなでおろすが、病床で過ごす日々の不安と苦痛は察するに余りある。

コロナ禍を経て世界的な人々の往来が急激に回復するなか、私たちは国境を越えるリスクの存在を改めて認識しなければならない。南アジアや東南アジア、アフリカなど、衛生環境やインフラが十分に整っていない地域への渡航に際しては、「加熱されたものを食べる」「生の水や野菜を避ける」という衛生の基本を徹底することが自らの身を守る第一歩となる。

「旅の恥はかき捨て」という言葉があるが、衛生管理における油断は捨て去るわけにはいかない。見知らぬ風土を愛(め)でる好奇心とともに、感染症に対する正しい知識と慎重さを鞄(かばん)に詰め込んで旅立つこと。それこそが、無事に帰国し、旅の思い出を笑顔で語り合うための何よりの心得である。

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