八代海の赤潮被害10億円超 事業者、水産業の衰退懸念

夏の強い日差しが照りつける熊本・八代海。その穏やかな青い海が一転、養殖業者たちを奈落の底へと突き落とす「死の海」と化した。有害プランクトン「シャットネラ属」による赤潮の猛威である。わずか1ミリリットルの海水に10細胞。その極めて小さな命の蠢きが、ひとたび増殖すれば、海の生き物たちの呼吸を奪う悪魔へと変貌する。

これまでにないスピードで海を染め上げた赤潮は、丹精込めて育てられたカンパチやブリなど約44万匹を容赦なく窒息させた。被害額は2年ぶりに10億円を超え、実に11億5千万円に上るという。ここ3年連続で巨額の被害が続く異常事態に、「これでは経営が成り立たない」と嘆く養殖業者の言葉は悲痛である。出荷を目前に控えた魚たちが、いけすで白い腹を覆していく光景を前に、どれほどの無力感と絶望を味わったことだろう。廃業の二文字が頭をよぎるのも無理はない。

一因とされるのは、皮肉にも恵みの雨だ。長雨が山から海へ栄養塩を運び、その後の晴天がプランクトンの光合成を爆発的に促した。自然の営みが、巡り合わせによって牙を剥く。だが、これを単なる「天災」として片付けてしまっては、明日の食卓を支える水産業の未来は閉ざされてしまう。

生産コストの高騰に耐え忍んできたいけすの底で、いまや日本の食料自給率という大きな土台が揺らいでいる。漁協が県に訴えた「いけすの大型化」や「デジタル技術による発生予測」は、もはや一過性の救済措置ではなく、持続可能な海の産業を守るための防衛線だ。

母なる海は時に残酷な試練を与える。しかし、海と共に生きる人々を孤立させてはならない。知恵と技術、そして行政の迅速な支援の網を広げ、この未曾有の危機を乗り越える。それこそが、豊かな八代海の恵みを次世代へつなぐ唯一の道である。

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