公益通報をした熊本県の職員が、パワハラを理由に懲戒処分を受けたのは不当だとして取り消しを求めている問題

一滴の水滴が静かな水面に落ちると、波紋はどこまでも広がっていく。組織の不正や歪みを正そうと声を上げる「公益通報」もまた、本来であれば健全な社会を保つための貴重な一石であるはずだ。しかし今、熊本県庁を舞台に広がる波紋は、通報者を保護するどころか、冷たい逆風となってその身に打ち付けている。

おととし発覚した県の旅行助成事業をめぐる不適切受給問題。これをごまかさずに告発した職員が、後に「部下へのパワーハラスメント」を理由に懲戒処分を受けた。処分を不当として取り消しを求める審理が、このほど県人事委員会で行われた。法廷さながらの緊密な空気の中、かつての部下や上司からは「大声での叱責があった」「事業を進めさせてもらえなかった」と、ハラスメントを裏付ける証言が相次いだという。

ハラスメントは決して許されるものではなく、事実であれば厳正に対処されるべきだ。しかし、今回の件に漂うそこはかとない違和感は拭えない。通報という「組織への反逆」と捉えられかねない行為の直後に、まるでタイミングを合わせたかのように過去の言動が掘り起こされ、重い処分が下される。こうした構図は、これまで幾度となく繰り返されてきた「通報者潰し」の歴史とあまりに酷似しているからだ。

「不適切受給はなかった、だから見逃しの指示もなかった」と主張する県側と、真っ向から対立する通報者側。真実の行方は今後の審理に委ねられるが、私たちが注視すべきは、組織が「正論を吐く者」をどう扱うかという姿勢そのものである。声を上げた者が、別件の刃で搦め捕られるような前例を作れば、のちに続く者は皆、口を閉ざすだろう。

不都合な真実を告げた者が、結果として孤立し、傷を負う社会は健全とは言えない。水面に広がった波紋が、組織の隠蔽という泥水に飲み込まれてしまわぬよう、私たちはこの異議申し立ての行く末を、厳しい目で見届けなければならない。

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