氷川町に初の仮設住宅が完成 来月5日にも入居 10年前より2週間ほど早い

過ぎ去りし記憶が、音もなく蘇る夜がある。いまから十年前、熊本の大地を揺るがした激震の記憶だ。あのとき傷ついた故郷の光景を重ね合わせながら、私たちは再び立ち向かう非常の日常のなかにいる。

熊本県氷川町の吉本仮設団地で、被災者が暮らす仮設住宅が完成した。8棟20戸。ささやかではあっても、雨風を凌ぎ、明日への生活を紡ぎ直すための「わが家」の誕生である。熊本地震の教訓を経た県内において、今回の震災では初となる入居が、9月5日から始まるという。

目を見張るのは、その素早さだ。前回の経験と比べれば、実に2週間以上も早い完成だという。住まいという生存の基盤を奪われた人々にとって、避難所という身の置きどころのなさは、心身をすり減らす毎日に他ならない。そこから一日でも早く抜け出せることの救いが、どれほど深いものかは察するに余りある。行政の迅速な差配と、現場でハンマーを振るった職人たちの奮闘に、まずは心からの拍手を送りたい。

だが、安堵の息を漏らしてばかりもいられない。県内では今なお、7つの市町で553戸に上る仮設住宅の建設が決まっている。氷川町で灯った希望の明かりは、いまだ途上にある復興のほんの一歩に過ぎない。

住まいを得ることは、復興の「ゴール」ではなく「スタート」である。過去の災害が教えてくれるのは、プレハブの壁の薄さ以上に、そこに暮らす人々の心の孤独である。見知らぬ仮の街で、かつての地域コミュニティが切れてしまわぬよう、いかに温もりある手を差し伸べ続けられるか。住宅の供給速度という「ハード」の試練を一つ乗り越えた今、次に試されているのは、一人ひとりの心に寄り添う「ソフト」の絆である。

吉本仮設団地に新しく灯る明かりが、被災された方々の傷ついた心を少しでも温めることを願ってやまない。早まった2週間の結実を、真の復興へと繋ぐ歩みは、これからが本番である。

Follow me!