「かっぱの本屋さん」として親しまれてきた書店「金龍堂まるぶん店」が、12月30日に閉店
かっぱの像が、どこか誇らしげに通りを見つめていた。熊本市の上通アーケード。半世紀余りにわたり、街行く人々を静かに迎えてきた「金龍堂まるぶん店」が、今年最後となる12月30日をもってその看板を下ろすという。建物の所有者側の事情による閉鎖だ。
1970年の開店以来、本棚のあいだからは幾多の時代が覗いていた。親に手を引かれて絵本を探した子どもが、やがて大人になり、我が子の手を取って同じ扉をくぐる。雑誌の発売日に胸を躍らせ、専門書の背表紙に人生の指針を探す。街の書店とは単に本を売る場ではない。世代を超えた記憶が集い、偶然の知と出会う「心の交差点」そのものであった。
スマートフォンの画面を指でなぞれば、瞬時に情報が手に入る時代だ。効率と利便性が重宝される一方で、目的もなく本棚のあいまをそぞろ歩く時間がもたらす豊かさは、次第に追いやられつつある。紙の匂いと静けさに包まれた文化の拠点が街から消えていく風景は、あまりにも切ない。
だが、失意のなかに留まらないのが「かっぱの本屋さん」たる矜持か。「前向きな気持ちでいます」と語る店長の言葉には、街のともしびを絶やすまいとする意志が宿る。従業員や象徴たるかっぱ像のゆくえ、移転先の模索。課題は山積みだが、閉店までの日々には感謝を込めた催しも予定されているという。
別れを告げる物語の終わりは、新たな章の始まりでもある。長年親しまれた愛称とともに、かっぱ像が再び笑顔で客を迎える日を期待したい。その時まで、私たちはこの慣れ親しんだ空間で、ページをめくる愛おしい時間を一歩ずつ噛み締めたいものだ。

