民法907条に定める遺産分割協議のルールを確認しよう

残された家族が、亡き人の財産をめぐって顔を寄せ合う。遺産分割の話し合いは、人生の終幕に寄り添う大切な儀式であり、時に深い溝を浮き彫りにするドラマでもある。民法第九百七条は、その話し合いの基本ルールを定めている。

第907条(遺産の分割の協議又は審判)
① 共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
② 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

条文をかみくだけば、原則は「いつでも、話し合い(協議)で自由に分け合ってよい」というものだ。例えば、父が亡くなり、母と兄、妹の三人が相続人になったとしよう。実家の家屋と土地、それに銀行の預貯金がある。遺言で禁じられてさえいなければ、三人で「母が住む家を継ぎ、預金は兄と妹で半分ずつ分けよう」と話し合って合意すれば、それにて落着する。全額を一度に分けず、まずは凍結された預金だけを先行して分け、不動産は後回しにする「一部分割」も認められている。生活費を急ぎ必要とする家族にとっては助かる仕組みだ。

しかし、世の常として、すべてが円満に運ぶわけではない。兄が「長男だから家も預金も多くもらう」と言い張り、妹が反発する。あるいは音信不通の相続人がいて話し合いすらできない。そうした暗雲が立ち込めるとき、第二項の出番となる。家庭裁判所へ逃げ込み、「調停や審判」で決着をつけてもらう道が開かれているのだ。

ここで実務上、重要な論点となるのが「一部分割の制限」である。家裁への請求は一部だけでも可能だが、例えば「価値のある預金だけを長男が勝手に先行分割し、価値の評価が難しく処分に困る負の不動産だけを残す」といった事態になれば、他の相続人の利益を害してしまう。そのため、全体の公平を損なう恐れがある一部分割は許されない。

さらに現代の相続実務において見逃せないのが、2023年4月に施行された改正民法との絡みだ。遺産分割に「10年」という事実上のタイムリミットが設けられた。特別受益(生前贈与)や寄与分(介護などの貢献)を主張して自分の取り分を増やしたい場合、死後10年を過ぎると原則として主張できなくなり、法定相続分で機械的に分けられることになった。放置された空き家や所有者不明土地の発生を防ぐための国の知恵である。

「いつでも分け合える」という権利は、裏を返せば「いつまでも先送りにしてよい」という意味ではない。話し合いという人間の温もりを重んじつつも、それが決裂したときは法の手続きへ切り替える。制度の骨組みを知っておくことが、残された者の悲劇を防ぐ処方箋となる。

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