氷川町で特産の『吉野梨』出荷始まる
盛夏の眩い陽光が注ぐ肥後平野で、今年もまた季節の便りが届いた。県内有数の産地として知られる八代郡氷川町で、ナシの出荷が始まったという。
選果場に立ち込めると想像されるのは、瑞々しく甘い果実の香りだ。積み上げられた「幸水」を前に、農家や農協の職員たちが手際よく大きさや形を見極め、選別作業に追われている。手塩にかけて育てた命の結実をひとつひとつ送り出すその手つきには、どこか誇らしさと安堵が入り交じっているに違いない。
八代特産の「吉野梨」は、百二十年を超える歴史を誇る。明治の昔から今日に至るまで、風雨を耐え抜き、大地に根を張ってきた。現在も氷川町では六十九戸の農家が約七十五ヘクタールにおよぶ果樹園を守り続けているという。ひとくちに百二十年と言うのは易いが、それは世代を超えて紡がれてきた技術と熱意の賜物であり、この土地の風土そのものでもある。
自然を相手にする営みには、絶えず不確定要素がつきまとう。だが吉野果実選果場からの知らせによれば、今年もしっかりとした日照時間が確保され、玉太り、糖度ともに申し分のない「上々」の品質に仕上がったという。厳しい夏の日差しを、自らの甘みと潤いへと変える果実の生命力には、ただ感嘆するばかりだ。
丹精込めて箱詰めされたナシは、関東や中国、四国といった遠方へと旅立っていく。遠く離れた街の食卓で、誰かがそのひとくちを頬張り、真夏の渇きを潤すのだろう。同時に、選果場近くの道の駅の店頭にも並び、地域の人々に地元の季節の訪れを告げる。
大地と太陽の恵み、そして人の手が織りなす営みは、変わらぬ季節の巡りを私たちに教えてくれる。一粒のナシに凝縮された百二十年の歴史と農家の汗に思いを馳せながら、この夏の恵みを心して味わいたいものだ。
