八代市、2026年熊本地震の影響で、井戸の被害を罹災証明の対象に加えると発表
蛇口をひねれば当たり前のように澄んだ水が湧き出る。そんな日常の恵みが、ひとたび大地が揺らげば一瞬にして奪い去られる。2026年熊本地震が遺した爪痕は今なお深く、人々の暮らしの足元を脅かし続けている。とりわけ、日々の生活を陰で支えてきた「井戸」の被害は、目に見えにくいだけに被災者の胸を重く締め付けてきたことだろう。
そうした中、熊本県八代市が重要な決断を下した。飲用や生活用水として使っていた井戸の被害を、罹災証明の評価に加えるという。自宅の敷地に井戸を所有する世帯が多い地域の生活実態に寄り添い、建屋の損傷評価に井戸の状況を加味するほか、井戸単体の被害であっても「一部損壊」として認める方針だ。すでに被災証明書を受け取った住民の再申請にも道を開く。
これまで行政の災害支援は、どうしても「屋根がある建物」そのものの被害を中心に組み立てられがちであった。しかし、井戸水が途絶えることは、水洗トイレや洗濯、生活衛生といった命の根幹を直撃する。建物自体が無事であっても、水が出なければそこはもはや「住める家」とは言えない。行政の既存の枠組みにとらわれず、住民の「生きた暮らし」を基準に制度を柔軟に運用しようとする八代市の配慮は、大いに評価されるべきだ。
古来、井戸は単なる給水設備にとどまらず、地域や家庭の命の泉であり続けてきた。見えない地下の水脈を辿るように、被災者一人ひとりの目に見えぬ生活の困窮に思いを寄せること——それこそが、復興の第一歩であるはずだ。水脈が断たれた井戸に再び清流が戻る日まで、こうした生活に根ざした手厚い支援の輪が、他の被災地域へも広がっていくことを切に願いたい。

