2029年7月開業予定の『アパホテル熊本下通』 地上15階建て・全265室で大浴場やレストランも併設
クレーンが空を突き刺し、槌音が街に響く。熊本市の中央区、水道町交差点のほど近くで、新しい宿の芽が息吹き始めた。大手ホテルチェーン「アパホテル」が熊本県内で3棟目となる「アパホテル熊本下通」の起工式を執り行った。地上15階、全265室。大浴場やレストランを整え、2029年夏の開業を目指すという。
熊本の街を歩けば、至るところに生々しい復興の足跡と、新たな都市の動動を感じる。2016年の大地震から十余年。崩れ落ちた城壁の修復はいまも続き、街は傷を癒やしながらも未来へと皮を剥き続けている。世界的な半導体企業の進出によって波及した経済の熱気は、ビジネス客や観光客を呼び寄せ、宿泊需要を急速に押し上げた。来秋には熊本駅前にも新ホテルが開業予定であり、同社は県内2000室の展開を見据えるという。
街の発展と宿の充実は表裏一体だ。旅人を温かく迎え入れる「城」が増えることは、復興の歩みを確かに力づける。だが、急ピッチで進む都市再開発の波を前に、ふと立ち止まりたくもなる。どこへ行っても同じ看板が掲げられ、同じ機能と効率が優先される景観は、街固有の情緒を塗りつぶしてはいないか。
下通りのアーケードを抜けると、かつて漱石が歩み、ハイカラな文化が薫った旧き良き熊本の風情が今もかすかに息づいている。近代的な高層ホテルがそこに佇むとき、求められるのは単なる「客室数」の拡張にとどまらない。その街の歴史や空気感と、いかに調和し、深く根を張れるかという視点である。
復興とは、単に新しいビルを建てることだけを指すのではない。そこに集う人々の記憶と、新しく訪れる人々の感動が重なり合って初めて、本当の街の賑わいが生まれる。2029年の夏、水道町の交差点に灯る新しい灯火が、熊本の歴史に寄り添う温かな光であることを願わずにはいられない。

