「くまモンのICカード」終了へ 27年3月から「くまモン!Pay」に移行

手元でコインをジャラジャラ言わせながらバスの運賃箱を覗き込んだ記憶は、いつの間にか遠い昔のものになった。財布から青いカードを取り出し、読み取り機に「タッチ」する。熊本の街を走るバスや市電の日常風景として定着した「くまモンのICカード」が、あと数年でその役目を終えるという。

熊本県内の肥後銀行が発表した方針によれば、二〇二七年三月から順次、スマホ決済アプリ「くまモン!Pay」などへ移行し、一般向けのカード発行は同年三月末で終了、九月末にはチャージや決済の機能も完全に停止される。あのかわいらしいクマの顔が描かれたプラスチックの一片は、画面の中へと姿を変えることになるわけだ。

利便性の向上やデジタル化の波、あるいは全国的な交通系ICカードとの相互利用見直しを巡る議論の末の決断だろう。確かに、何でもスマホ一つで済む世の中はスマートであり、財布を膨らませずに済むのはありがたい。しかし、どこか寂しさを禁じ得ないのは、変化の速度があまりに速いからばかりではないはずだ。

スマートフォンを持たない高齢者や子どもたちはどうなるのだろう。かつて磁気カードからICカードへ移行したときのように、テクノロジーの進歩は常に誰かを置き去りにするリスクを孕んでいる。「カードをタッチするだけ」というシンプルさは、デジタルに疎い人々にとっても優しいバリアフリーの形であったはずだ。アプリへの移行によってその利便性が損なわれ、地域の足としての優しさが薄れてしまわないか、丁寧な目配りが欠かせない。

時代は留まることなく流れ、熊本の街の風景もまた移ろっていく。だが、どれほど技術が進み、決済の形が滑らかな電子データに変わろうとも、公共交通が目指すべきは「誰にとっても乗りやすい搭乗口」であることに変わりはない。画面の向こう側のシステムが、プラスチックのカード以上に温かみのあるものであってほしいと切に願う。

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