熊本地震の影響で一部区間で運休が続いていた九州新幹線が52日ぶりに全線で運行を再開
線路という一本の鉄の束が、これほどまでに人の心を繋ぎ留めていたのかと思い知らされる。熊本地震による傷痕で分断されていた九州新幹線が、五十二日ぶりに全線で運行を再開した。熊本と新水俣の間に再び動き出した一番列車の響きは、長く暗いトンネルを抜け出そうとする九州の、力強い鼓動のようであった。
ホームで始発を待つ高校生たちの晴れやかな表情が印象深い。これまでバスや在来線を乗り継ぎ、二時間以上もかけて通学していた道のりが、一時間足らずに縮まったという。「学校も頑張れる」。当たり前の日常を取り戻した若者の言葉には、単なる移動手段の復旧を超えた、明日への意欲が満ちている。不通区間の代替として特急料金を免除する柔軟な対応も、地域に寄り添うインフラの温もりを感じさせた。
全国の駅長から寄せられた応援のメッセージに「みずほ実り、さくら咲き、つばめ舞う日が再び来ることを」とあった。列車名になぞらえた祈りは、いま現実のものとなった。大動脈の復活は、人々の行き来を再開させるだけでなく、途絶えかけていた地域社会の絆を再び結び直すことでもある。駅に人波が戻り、駅長が「これこそがあるべき姿」と胸を撫でおろしたのも頷ける。
震災という非常事態は、私たちが普段どれほど文明の利器に支えられ、人との繋がりに生かされているかを浮き彫りにする。シルバーウィークを目前に控えた全線再開は、被災地に寄せる全国の思いと、現場で復旧に汗を流した人々の執念が結実したドラマでもある。一本のラインで再びひとつになった九州。南北を駆け抜ける風は、傷ついた大地に確かな復興のいぶきを運んでいくはずだ。
