八代市の庁舎建設をめぐる百条委員会 証人喚問で中村前市長「特定の業者に有利な入札だったとは知らなかった」

「知らずに承認した」。その一言が、かつての市政トップの口から発せられた時、傍聴席にはどのような空気が流れただろうか。八代市の新庁舎建設をめぐる汚職事件。議会の百条委員会で行われた中村博生前市長への証人喚問は、責任の重さと「記憶」の曖昧さの間に漂う、深い溝を浮き彫りにした。

事件の構図は根深い。特定のゼネコンに有利な評価基準案が作られ、逮捕・起訴された市議を通じて副市長、そして市長へと流れていったとされる。当時の副市長は「市長の了解を得た記憶がある」と証言した。しかし、前市長の主張は「知らなかった」の一点に尽きる。特定の業者に有利な入札だったとは露知らず、ただ書類に判を突いたというのだ。

確かに、巨大な行政組織のすべてをトップが把握するのは不可能かもしれない。だが、そこには巨額の公金と市民の信頼がかかっている。部下の職員は「市長からの電話指示」を記憶し、評価基準をめぐる協議の議事録すら残されているという。それらをことごとく「記憶にない」と切り捨てる姿に、首長としての当事者意識を探すのは難しい。知らなかったで済まされるなら、最高責任者という座は何のためにあるのだろうか。

「真実は一つしかない」。委員の言葉が重く響く。金の受領は否定したものの、結果として不正な入札が見過ごされ、市政への信頼は地に落ちた。無自覚な承認が招いた罪は、意図的な加担に劣らず重い。

庁舎とは、市民が集い、地域の未来を語るための公の器である。その礎が汚職の泥にまみれていたとすれば、これほどの不条理はない。言葉の盾に隠された「真実」が白日の下にさらされ、八代の空に一点の曇りもない信頼が取り戻される日を、市民は凝視している。

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