熊本・玉東町職員の懲戒処分を県人事委員会が取り消し・・・警察の捜査協力がなぜ「守秘義務違反」に問われるのか
「口に蜜あり、腹に剣あり」とは、表面は親しげでも心に企みがある例えだが、権力を笠に着た独断は、往々にして刃となって自らに跳ね返る。熊本県玉東町で起きた懲戒処分をめぐる騒動を聞き、あらためて組織のあり方を考えさせられた。
事の起こりは昨年五月。町の新庁舎建設工事などをめぐる警察の捜査に関連し、任意で事情聴取を受けた男性職員が、「内部情報を警察に漏らした」として減給処分を受けた。警察の捜査協力がなぜ「守秘義務違反」に問われるのか、首をかしげたくなる。
驚くべきは、その処分の過程だ。町の審査委員会が「違反の事実は確認できなかった」と答申したにもかかわらず、町長はそれを覆して懲戒処分を強行したという。有識者や関係者が慎重に議論を重ねた結論を無視し、自らの直感や忖度を優先させたのだとすれば、それはもはや行政の公器としての体をなしていない。
だが、不当な裁量に待ったをかけたのが県の指示役、県人事委員会だった。男性職員の不服申し立てを受け、「処分する事由が確立していない」として取り消しの裁決を下したのである。正当な理由なき処罰は認められないという、法治国家として至極当然の裁定である。
渦中の町長は記者からの質問に固く口を閉ざしたという。しかし、自身の判断で一人の職員の尊厳を傷つけ、退職にまで追い込んだ責任は、だんまりを決め込むことで消え去るものではない。不都合な事実に蓋をし、説明を拒む姿勢こそ、町民の信頼を失墜させる最大の原因ではないか。
組織の不正を正そうとする手や、捜査への協力を「裏切り」とみなして弾圧する風潮は、決してこの小さな町だけの話ではない。風通しの悪い組織はいずれ腐敗する。今回の裁決を単なる一自治体のスキャンダルで終わらせてはならない。権力の暴走を防ぐブレーキが正しく機能するかどうか、私たちは常に見張る必要がある。
