熊本県や熊本市、地元の公共交通機関らが結集し、マネジメント組織「熊本交通機構」の設立に向けた覚書を結ぶ
ジリジリと照りつける夏の太陽のもと、熊本の街を路面電車がガタゴトと音を立てて走り抜けていく。停留所で乗客を吐き出したかと思えば、すぐ脇を黄色いシェアサイクルが軽やかに漕ぎ去る。いくつもの「足」が交錯する都市の日常風景だが、これまではそれぞれの乗り物が独立し、どこかバラバラの歩調で走っているようにも見えていた。
その足並みを一つに揃えようという新たな試みが、いよいよ本格的に動き出す。熊本県や熊本市、地元の公共交通機関らが結集し、マネジメント組織「熊本交通機構」の設立に向けた覚書を結ぶ。目指すは本場ヨーロッパなどで成果を上げてきた「運輸連合」の熊本版だ。行政と事業者がタッグを組み、利便性の高い移動サービスを一体的に提供する。
協議会のトップには大西一史・熊本市長が就き、シェアサイクル事業「チャリチャリ」の参加も決まったという。路面電車や路線バスといった従来の公共交通にとどまらず、いわゆる「ラストワンマイル」を担う新たな移動手段まで巻き込む点に、これまでにない本気度がうかがえる。10月の設立を見据えた動きは、車社会と言われて久しい熊本の交通構造に一石を投じることになるだろう。
利用者にとっては「会社ごとに切符が異なり不便だ」「乗り継ぎの接続が悪い」といった日々の小さなストレスの解消が期待される。移動の分断は、そのまま街の賑わいの分断にもつながりかねない。公共交通といういくつもの線がシームレスに交わり、ひとつの大きなネットワークを描くことで、誰もがスムーズに移動できる豊かな都市空間が生まれるはずだ。
交通が変われば、そこに暮らす人々の行動や街の表情も変わっていく。7月29日に交わされる覚書は、いわば熊本の未来に向けた「協奏曲」の楽譜を書き始める作業と言えよう。バスや電車、そして自転車が調和した心地よいアンサンブルを奏でられるか。秋の本格始動を期待を込めて見守りたい。
