地震の影響で温泉水を配給できないなど被害が出ている八代市の日奈久温泉を木村敬知事が訪れる

湯煙の向こうに立ち上るはずの温もりが、途絶えている。八代市の日奈久温泉である。地震の揺れは、地表を揺らしただけではない。老朽化した配管を傷つけ、恵みの温泉水を汲み送る大動脈を断ち切ってしまった。旅館組合に所属する10軒の宿が休業を余儀なくされているという。

創業数百年の歴史を誇り、かつて薩摩藩主の参勤交代や俳人・種田山頭火にも愛された名湯である。日々の疲れを癒やし、人々の営みを温めてきた湯が止まることの喪失感は計り知れない。風呂の湯が冷めるとき、そこに集う人々の心にもまた、冷たい影が落ちる。

現地を訪れた熊本県の木村敬知事は「配管も相当古い。しっかり対応できるものにしていきたい」と語り、2年前の能登半島地震で大打撃を受けた石川県和倉温泉を引き合いに出した。地中のインフラは普段、私たちの目に触れることはない。しかし、その老いと脆さは、災害という不条理な爪痕によって容赦なく露呈する。和倉が歩んだ苦難と復興への道のりは、決して他人事ではない。

温泉街の灯を消してはならない。湯の町にとって、源泉とその配管は文字通りの「生命線」である。個々の旅館の努力だけでは抗えない地中の損壊にどう立ち向かうか。行政と地元が膝を突き合わせ、先達の教訓に学ぶ迅速な議論が求められている。

湯が再び注がれる日を待ち望むのは、宿の主たちだけではない。そこを訪れ、湯に身を委ねてきた多くの人々も同じだ。傷ついた管を繋ぎ直す作業は、地域の歴史と人々の絆を未来へと繋ぎ直す営みにほかならない。一日も早く、あたたかな湯気とともに日奈久の街に賑わいが戻ることを切に願う。

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